私がまだ小学校低学年だった頃、学校の長期休みの時は必ず田舎の祖父母の家に遊びにいっていました。
私は自他共に認めるおばあちゃんっ子で、息子しかいなかった祖母は孫の私を大変可愛がってくれていました。
これは、大好きな祖母と体験した、夏のある日のお話です。
山に囲まれ、清流の流れる小さな花の町

祖父母の家は山間の小さな町にあり、盆地状になった町の中心には大きな川が流れており、山と水辺の両方の自然を身近に感じられる環境でした。
小さな田舎町ではありましたが、町内には学校や病院、郵便局や警察署などの公共施設は当然のこと、銭湯や駄菓子屋さんや小さな文房具店など今ではなかなか目にすることもなくなってしまった店もありました。
未來楽貸本屋さんなんてのもありましたよ。当時でもかなり珍しい存在でした。
遊ぶ場所といえば、山沿いの自然公園や少し開けた山裾などで、夏場には川の浅瀬を選んで水遊びをすることもありました。小学校の校庭も解放されていましたが、遊具で遊ぶよりも自然の中で遊ぶ方が圧倒的に楽しかったのですね。
四季折々の植物が美しく、桜、ツツジ、石楠花、青紅葉、ひまわりや桔梗、秋の紅葉も見事で、たまに祖母と一緒に街を一周するように1〜2時間かけて散歩するのも楽しみでした。
神社からの帰り道
夏休みのある日のこと。
私は神社に参拝する祖母にくっついて行き…といっても道中に通りがかる駄菓子屋さんでお菓子を買ってもらうのが目当てでしたが…、眩しく明るい草道を歩いていました。


あっちこっちと視線を向けながら、前を歩く祖母から離れないように後ろをついて歩いていると、ふと祖母が足を止めました。
不思議に思って後ろから前を覗こうとすると、自分の後ろにいるようにと黙ったままやんわりと手で止められました。



おばあちゃん、どうしたの?なんかいるの〜?



しっ。前に出てきちゃいけないよ、止まっておきなさい。
そろりと祖母の伸ばした腕ごしに前を覗くと、これから歩いて進む道の草の中から、大きな黒い塊が伸びてくるところでした。



蛇だ!
ゆうに体長1.5mはあろうかという真っ黒な蛇で、祖母が立っている場所から2mほど先の薮から現れ、ゆっくり、ゆっくりと道を横切って反対側の薮の方へ消えて行きました。蛇を追い払うでもなく、驚くでもなく、じっと道を横切っていくのを見送る祖母の様子を訝しく思い、尋ねてみました。



おばあちゃん、なんで蛇が通るまで止まってたの?みんな追い払ったりするのに。



山の道は蛇のものだからよ。この道は、この山に住んでるものの道よ。人間は通らせてもらってるんだから、道を譲るのは当然なのよ。



わかった!じゃあ、みくらも山で蛇に会ったら道、譲る!
無類のおばあちゃんっ子である私は、祖母に教えられたことは世の中の絶対と信じていたので、この時から山で生き物に会った時は必ず「お邪魔しました。どうぞ先へお通りください」と一声かけて道を譲るようになりました。
今でもこれは変わっておらず、たまに年配のおじさんに「あんた、蛇怖くないのか?平気なのか?」と驚かれます。
ヤマカガシやアオダイショウなどの毒を持っていない蛇にしか遭遇したことがないのもありますが、それでもこの時の祖母の言葉は大事な教訓となっています。
(※無毒と言われる蛇でも環境や個体によって毒を持つものもいるのでご注意を)











