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たった一度だけ、師範が私にお茶目な悪戯?を見せてくれたことがありました。
それは私が入門して初めての新年会に参加した時のことでした。
お酒に弱い私が酒席に
近隣の支部が一同に会して行われる新年会は、とあるホテルのレストランの大広間を借り切って行われました。
私はお酒の味は好きなのですが、体質的にすぐに酔ってしまい量が飲めないため、失礼にあたらないように周りの方にその旨をお伝えしていました。
門下生は圧倒的に年配の方が多く、普通に返盃の文化があるため、「私弱いんで、ちょっと」と断ってしまうと興醒めしてしまうんですね。
未來楽皆さんきっとたくさん飲まれると思うのですが、私は最初の乾杯含めて2、3杯程度しか飲まないようにしています。そんなのでも参加していいものでしょうか。



無理に飲ませるような人はいないから大丈夫よ。もし飲まされるようなことがあったら私に言ってね。師範もご承知だから気にしないでいいから。
普段の自分なら周りのことは気にせずに自分のペースで飲食は楽しむのですが、新年会は門下生同志の挨拶も兼ねているのでより社交の場としての要素が強いのですね。
少しでも新年会らしく盛り上げようと思い、臙脂色に白梅の小紋柄の着物に白の博多帯を締めて参加させていただきました。


師範からの手招きで隣の席へ
開場と同時に会場に入ると、一番の新入りである私は下座に席を取り、続々と集まってくる門下生の皆さんに新年のご挨拶をしていると、補佐役の方と一緒に師範が会場入りされました。
役員の方々が挨拶をされる中で、端の方からそっと会釈させていただくと、ふと師範が動きを止め、人垣の向こうから正面に向き直ると静かにうん、うん、と満足そうに頷かれました。その仕草から着物で参加してきたことを褒めてくださっているのだとわかりました。この日は後から遅れて参加された女性が着物を着てこられた以外は、男性も女性もみなさん洋装だったので目についたようでした。
開演の時間になり、まるで貴族の食卓のような長いテーブル席の中央の上座に師範がおかけになり、補佐役が左右に控え、師範の真向かいに師範代もおかけになり、自然と皆さんが序列通りに何となく席を選ばれている中で私はそのまま隅の下座に座り直そうとした時でした。



みくらさん、こちらへ。
と補佐役の先輩からお声がかかりました。そちらに顔をむけると、師範がちょいちょい、と手招きをしていらっしゃいます。



あれ?ここが下座かと思ったけど間違ったのかな。
慌てて立ち上がって、テーブルの反対側の席へ移動しようとしたところ、またお声がかかりました。



みくらさん、師範がお呼びです。こちらに。
すると、周りの門下生の方もにこにこ笑いながら師範の斜め正面、師範代がおかけになっている席の二つ隣を差して「ここ、ここ。」と案内してくださいました。



ひいぃ!あんな正面の上座に近い場所にいかなきゃいけないのー!?
狼狽えながらも師範のご示唆に反するようなことはできないので、おろおろしながらも示された席につくことになりました。
それは、波動。
師範から新年の御挨拶をいただき、続いて師範代、各支部長からのごく短い挨拶のあと、一斉に乾杯となり宴が始まりました。
私は乾杯用の小さなグラスにビールを注いでもらって半分ほど飲んだあとは、料理をメインに頂いていました。懐石のコースが用意されており、一品ずつ運ばれくる美しい料理を楽しんでいると、ほどなく補佐役の先輩からお声がかかりました。



みくらさん、ちょっとこちらへ来れますか?グラスを持ってきてください。



ここ、席かわって、師範の隣に。
と師範の左隣の席へかけるようにと、またちょいちょいと手招きされました。少しお酒が入って多少緊張がほぐれていた私は、何だかちょっと面白そうに笑っているお二人の言葉通り師範の隣に移動させてもらいました。
改めて新年の御挨拶をさせていただくと、和やかに言葉をかけてくださいました。そして、持ってきたグラスを差し出すように指し示されたので、不思議に思いつつもお渡ししました。



中途半端にビールが入ってるけど、何だろう?
すると、不思議な質問をされました。



ビールの味は覚えていますか?



はい、乾杯の時に飲んだので覚えています。弱いですが味は好きで分かるので。
すると師範は片手でグラスを目の高さまで上げると、もう片方の手を、すっ、すっと何度かグラスの周りにかざし、最後に二、三度グラスを軽く指で弾くと、はい!とばかりに私の手に戻されました。



一口飲んでみてください。
と仰られるので、何が何だか訳がわからないまま言われた通りに一口飲んでみて、驚愕しました。



えっ!えっ!!あれっ!!味が変です!
薄い?なんか水みたいになってますーーー!?
なんと、数秒前までビールだったものが、水のようにやたらと味の薄い液体に変わっていたのでした。例えていうなら気の抜けた炭酸に近いような、水とビールを混ぜたような味わったこともないもの。
一体何が起こったのか訳もわからず、ひたすら狼狽えて、もう一口飲んでみましたが、やはり最初の乾杯の時に飲んだビールとは似ても似つかない味になっているのです。目をひん剥いて驚いた顔を師範に向けると、勢い込んで質問していました。



どっ!?これはっ!?
どうなっているのですか?



アルコールが抜けているでしょう?
私を守護してくださっているある神様特有の波動があってね、その波動を通してアルコール成分を変えました。



波動…
こんなことが起こるなんて。
初めて知りました!
ところが、驚いて狼狽えているのは私ばかりで、先輩も師範代も他の皆さんも驚きもしなければ気にも留めないといったふうです。ちょっと悪戯っぽい笑みを浮かべて頷いている方もいらっしゃり、どうやら師範は入門間もない門下生にこの『アルコールが抜けてしまう技』をよく見せていらっしゃるようでした。



ふふふ
ここでは、とある神様と濁させていただきましたが、実際は神様の御名も教えていただきました。この時は、波動とは何かも知らず、名前を教えていただいた神様が一体どんな存在なのかも知らず、ただ師範が悪戯っぽく笑いながら見せてくださった一度きりの不思議な技に驚くばかりでした。
これが、目の前で体験した、唯一の私の不思議な出来事でした。
そして、この新年会のあと、師範からメールが届き、「本日のあなたのお着物姿は大変よろしかったです。どうぞ日本の貴重な文化をこれからも大事にしてください。」とお褒めの言葉をいただいたのでした。嬉しいお言葉でした。










